げっ歯類におけるパーキンソン病(PD)モデルの一般的なアプローチには、ミトコンドリア複合体I阻害剤であるロテノンなどの神経毒が用いられる。マウスにロテノンを全身投与すると、急速にPD症状が誘発される。しかし、その結果はしばしばばらつきが大きく、頑健性に欠ける。
従って、尾状被蓋(CPu)へのロテノンの片側注射は、これまでのアプローチに代わる良い選択肢となる。ロテノンを注射すると、いくつかの行動テストで運動能力が低下するが、ドーパミン作動性シグナルの障害、神経変性の増加、活性化したミクログリアとアストロサイトーシスによって示される神経炎症も起こる。
詳細には、片側ロテノン注射前(ベースライン)、注射後2週間および4週間の3つの時点で、2つの運動行動テストでマウスをテストした。ロテノンを注射したマウスは、DMSOを注射したマウス(図1B)に比べ、4週間後の回転テスト(図1A)、2週間後の梁歩行テスト(図1B)においてすでに有意な運動能力障害を示した。
図1. ロテノン注射マウスにおける運動障害。 A:B: ロテノンまたはDMSO注射前(ベースライン)と注射2週間後および4週間後のビームウォークテストにおける1歩あたりのスリップ。平均値+SEM(各群n=16-28)。二元配置反復混合モデルANOVAとボンフェローニポストホック検定により、各時点および各群内の時点を比較。**p<0.01, ***p<0.001,#p <0.05,###p <0.001。
さらに分析したところ、ロテノンを注射すると、注射したCPuではチロシン水酸化酵素(TH)レベルが低下したが、対側のCPuではTHレベルは生理的なままであった(図2A)。終末血漿サンプルのニューロフィラメント軽鎖(NFL)レベルを測定したところ、ロテノン注射マウスでは、注射からすでに2週間後にNFLレベルが有意に上昇していた。ロテノン注射から4週間後も、NFLレベルはDMSO注射マウスと比較して有意に増加していたが、ロテノン注射2週間後に採取した血漿と比較してレベルは減少していた(図2B)。
リン酸化α-シヌクレインレベルを組織学的に評価した結果、ロテノンを注射した半球のCPuにおいて、残基Ser129でリン酸化されたα-シヌクレインレベル(pSer129-α-syn)が有意に増加した(図2C)。活性化ミクログリアを示す神経炎症マーカーIba1(データは示さず)とアストロサイトーシスを示すGFAPを分析した結果、ロテノンを注射したCPuでは、注射からすでに2週間後に、対側のCPuに比べて免疫反応領域が有意に増加していた(データは示さず)。同様の結果が黒質でも観察された。図2DにGFAPについて示したように、両マーカーのレベルは注射4週間後も上昇したままであった。
図2. ロテノン注射マウスの神経細胞病理。 A:B:ロテノンおよびDMSO注射マウスから採取した終末血漿中の神経フィラメント軽鎖(NFL)レベル(pg/ml血漿)(ベースライン時、注射2週後および4週後);n=8-10。C:pSer129-α-シヌクレイン、D:グリア線維酸性タンパク質(GFAP)免疫反応性(IR)面積(ベースライン時、注射後2週および4週におけるロテノンおよびDMSO注射マウスの同腹側および対側黒質における%);n=8。A、C、D:二元配置反復分散分析、Bonferroniポストホック検定:*同一動物内の反対側半球と同側半球間の差;#同一半球を比較したときの治療群間の差。B: ベースラインに対する全群を比較するための一元配置ANOVAとBonferronipost hoc検定、群間および時点間の差を評価するための二元配置ANOVAとBonferronipost hoc検定(ベースライン値は除外)。 *時点間の群間差、#ベースラインとの差。*/#p<0.05、***/##p<0.01***/##p<0.001。C/contraは対側、I/ipsiは同側。
要約すると、野生型マウスの尾状核にロテノンを片側注射すると、強い運動障害、ドーパミンシグナル伝達障害、神経変性、神経炎症が起こる。その影響は強固で、主に注入した脳領域で観察されるが、同側の黒質でも観察され、ロテノンを注入した半球の対側の脳領域は影響を受けない。病態はロテノン注射の2~4週間後にはすでに明らかであるため、ロテノン注射マウスは非常に迅速なPDモデルであり、したがって非常に短いリードタイムでPD治療薬の試験が可能である。
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